世界標準時の決め方 - UTC が維持 / 配信される国際的な仕組み
UTC がどのように生成 / 維持 / 配信されているかを解説。世界 80 以上の研究機関の原子時計群による協調、BIPM の役割、うるう秒の決定プロセスまで国際的な時刻管理体制の全体像を示します。
うるう秒は、原子時計に基づく国際原子時 (TAI) と、地球の自転に基づく世界時 (UT1) のずれを 0.9 秒以内に保つために UTC に挿入 (または削除) される調整秒です。1972 年の UTC 導入以来、2016 年末までに計 27 回のうるう秒が挿入されました。挿入は通常 6 月 30 日または 12 月 31 日の 23:59:59 の後に 23:59:60 を追加する形で行われます。
うるう秒が必要になる根本原因は、地球の自転が一定ではないことです。潮汐摩擦により地球の自転は長期的に減速しており、1 日の長さは 100 年あたり約 2.3 ミリ秒ずつ長くなっています。ただし短期的には地殻変動や大気循環の影響で加速することもあり、うるう秒の挿入間隔は一定ではありません。1972〜1979 年は毎年挿入されましたが、2017 年以降は 1 回も挿入されていません。
2022 年 11 月、第 27 回国際度量衡総会 (CGPM) は、UT1 と UTC の差の許容上限を 2035 年までに拡大する決議 (決議 4) を採択しました。これは現行の 0.9 秒という上限のもとで続いてきたうるう秒の挿入を実質的に終えるものですが、新しい上限値と実施時期は 2026 年 9 月時点では確定していません。この決議は、うるう秒が現代の通信・金融・航法システムに与えるリスクが、天文時との同期を維持する利益を上回ると判断されたことを意味します。
決議は、UT1 と UTC の差の許容値を 2035 年までに拡大し、UTC の連続性を少なくとも 1 世紀にわたって確保することを求めています。差が大きく開いた場合にどう扱うかはまだ決まっておらず、より大きな幅を一度にまとめて調整する方式が議論の対象です。新しい許容値の具体案は国際度量衡委員会 (CIPM) が国際電気通信連合 (ITU) などと協議して作成し、2026 年の第 28 回 CGPM で決議される予定です。
うるう秒が IT システムにとって問題となる理由は、23:59:60 という時刻が通常の時刻表現に存在しないためです。多くのソフトウェアは 1 分 = 60 秒を前提としており、61 秒目の存在を正しく処理できません。2012 年のうるう秒挿入時には、Linux カーネルのバグにより Reddit、Mozilla、Foursquare などの大規模サービスが障害を起こしました。
航空管制システムでは、うるう秒挿入の前後に GPS 時刻 (うるう秒を含まない) と UTC の差が変わるため、システム間の時刻同期に細心の注意が必要です。金融市場では、取引のタイムスタンプに 1 秒の不連続が生じると、取引順序の整合性が崩れる可能性があります。これらのリスクを回避するため、多くの組織がうるう秒の廃止を支持してきました。
うるう秒の問題に対する現在の主要な回避策は「リープスミア」(leap smear) です。Google は 2008 年から、うるう秒をそのまま挿入する代わりに、その前後で各秒を微小に伸縮させる方式を採ってきました。現行の方式では、うるう秒をはさむ前後 12 時間 (計 24 時間) の間、各秒を 1/86400 秒 (約 11.6 マイクロ秒) ずつ長くすることで、1 秒分の調整を滑らかに分散させます。
Amazon (AWS) は Google とほぼ同一の 24 時間スミアを採用しています。一方で、スミアを行わずうるう秒をそのまま挿入する設計のサービスもあり、方式は事業者ごとに異なります。異なるクラウド間でうるう秒前後の時刻を比較する際には、この違いによる微小なずれに注意が必要です。うるう秒の挿入が停止されれば、この種の回避策自体が不要になります。
うるう秒の挿入が終わると、その時点での TAI と UTC の差 (2026 年 9 月時点で 37 秒) がその後も保たれる見込みです。地球の自転速度の変動は UT1 にのみ反映され、UTC には影響しなくなります。天文学者や航法システムは引き続き UT1 を参照しますが、一般の IT システムや日常生活では UTC のみを意識すれば十分になります。
長期的には UTC と太陽時 (UT1) の差が蓄積していきます。現在の地球の減速率が続くと仮定すると、100 年後には数十秒から 1 分程度、1000 年後には約 1 時間のずれが生じます。しかし、これは数世代にわたる緩やかな変化であり、日常生活に影響を与えるレベルに達するのは遠い将来です。CGPM の決議は、この長期的なずれへの対処を将来の世代に委ねる判断でもあります。
この記事は役に立ちましたか?
UTC がどのように生成 / 維持 / 配信されているかを解説。世界 80 以上の研究機関の原子時計群による協調、BIPM の役割、うるう秒の決定プロセスまで国際的な時刻管理体制の全体像を示します。
タイムゾーンの基本概念から UTC を基準とした時差の決まり方、世界各国の標準時の採用状況までわかりやすく解説します。
サマータイムの仕組み、導入の歴史、各国の現在の対応状況、そして近年の廃止議論について詳しく解説します。